羽咋(ハクイ)能登語源4
滝町には滝がない
ここ滝町に住み着いて、滝がないのになぜ「滝」と名がついたのか不思議でした。
生まれも育ちも滝町の山崎先生にお訊きすると「滝崎にちいさな滝がある」とのことでした。雨の多い日に崖下の自転車道を通ると、ちょうど封切り映画「小さなおうち」のロケ撮影があった家の下あたりに、農業用水が急流になって流れ落ちています。が、私には滝に見えません。
フランスの友人は日本の川は滝だ、と言ってました。あちらは地層が古く、山と言うより丘がせいぜいで、そこにブドウ畑がひろびろつづく。だから日本の山沿いの川は滝に思えるのでしょうが。
そのうち、気多神社の古文書に「竹津」とあるのは「滝湊」のことだ、と耳にしました。「津」は湊のことですから「滝港には竹薮があるからね」と、話が落ち着きそうでした。でも私は納得しません。滝町に限らず細い竹の群生はこの辺りどこにでもあるじゃありませんか。
そこで「アイヌ語辞典」の登場です。「たき(taki)」では”当格”を見つけ出せませんでした。が「たけつ」は"当たり"でした。
■「tak-etu」(たケとゥ)=ごろた石・岬「(川の中の)ゴロタ石」というより「海の中の石や岩」といった滝崎ですが、加賀からの長い砂丘が初めて岬になり、海岸と海にごろごろしてる”滝石”(庭石として高価に取引された)や小振りの”だんご石”産出のここの表現にあまりにぴったりで、思わず「やったー!」です。
tak [たk]=かたまり、塊、玉、玉石、(川の中の)ゴロタ石
etu [エとゥ]=鼻、岬
(※[た⤵ケ⤴とゥ]という両端上がりのアクセントです。「とゥ」は英語的発音「tu」です。
もう一つ、おまけを発見しました。滝町の国道沿いに「滝古墳群」がありますが、岬の先端に「滝古墳群オーショージ支群」と地図資料にあります。カタカナは臭い!のです。考古学の地名表記は字名(あざめい)なのだそうで、こうした名前は地元に伝わるものを記したと思われ、漢字がありません。
アイヌ語辞典でズバリ、1語の表現を見つけました。ただし発音は少々訛ります。試しに「し」のみ高音で両端低音でosirusi と言ってみてください、オーショージに近づく実感があるはずです。
■オーショージ ←osirusi(=osiruji) オしルジ =断崖二千年近く経て、地域でこれほど原型をとどめて伝えられている事に感動しました。意味はとっくに不明になってるでしょうに…。
(o・sir・us・i=尻が・水際の断崖・についている・もの。「-si=-ji」*アイヌ語は無声音と有声音の区別をしない)
現在滝町に住む方々の先祖は、江戸時代の末に、南加賀の美川(旧・本吉)から移住して来たと気多神社の文書にあって、そのさい「竹津」を「滝(津)」に替えたと思われます。
(写真は滝崎と、顔を出した石のごろごろ。縄文期には海岸線の大きな後退期や、「縄文海進」期では今より2m程水位が高いこともあった。) 中田虫人
925-0005 石県羽咋市滝町レ99-88 TEL 0767-23-4401