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スポコン君-72

[田中雅紀氏の連載マンガ]
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過疎化


 私の古里は能登の入り口羽咋郡の山沿いの集落だ。

実家は江戸時代末期に建てられた典型的な百姓家で、土間や井戸、かまどがあり、風呂は鉄製の五右衛門風呂だった。居間には囲炉裏が切ってあり、煙を抜くために天井板が張られていなくて、屋根裏の太くて黒い柱や梁がむき出しに見えた。屋根に穴を開けてあるため、また玄関の大戸をめったに閉めないので、家の中に色んな虫や小動物が入ってきた。

ある時は、祖父が読んでいた新聞の上にボトリとムカデが落ちた。私は子供のころ病気で数年間寝たきりでいたが、その日部屋で1人寝たまま天井をぼんやりながめていた。すると梁の上をネズミが走るのが見え、つぎの瞬間ひそんでいたヘビが獲物をめがけて飛びついた。大きな青大将で、ネズミを咥えたまま私の枕元へドサリと落下。逃げられない私は悲鳴をあげて祖父に助けをもとめた。

 そういう思い出もいっぱいある家だった。その家が空き家になって10数年たつ。

古里の実家は本来なら長男の私の父が継ぐはずだったが、当時は田舎では仕事が無く、父は妻子を連れて金沢へ出て商売を始めた。実家は父の末の妹が継いだ。あれから半世紀がたち叔母も亡くなり、叔母には子供がいなかったので家を継ぐ者がだれもいなくなった。

金沢へ出た父も今はなく、私には実家の家をどうにかする義務も権利もないとは思うのだが、やはり気になる。家も気になるが墓のことも気になっていた。祖父母や先祖が眠る墓が将来無縁墓になるのでは‥‥ と。墓のお骨だけでも金沢の父の墓に移そうかと考えた。

今年の夏に羽咋市に住む親戚の人に相談した。彼は、これまでどうり墓は自分が元気なうちは世話をするねと、言ってくれた。そして家のこと。家は大きいし倉や納屋もあり、取り壊して片付けるには数百万円がいる。山や土地を売って費用にしょうにも買手はないという。それに、家を片付け更地にすると土地にかかる税金が上がるらしいのだ。方法は家が朽ちて果てるにまかせるよりないと。

私が、空き家を放置して子供でも遊びに入りケガでもしたら責任を問われるのではないか? と訊くと、彼は、子供なんかおらん、と笑った。
ある意味、目から鱗だった。街で想像している事とは違うのだ。

 北陸新幹線が開業してから半年がたち、その効果から金沢市の住宅地価の上昇率が全国1位になったと報じられた。しかし金沢以外の県内の地価はやはり下落が止まっていない。NHKの朝ドラ「まれ」の舞台になって観光客が増えた輪島市も例外ではなかった。地価が下がるということは、過疎化がじわじわと進んでいるのだろう。日本中で。

 古里の思い出がいっぱい詰まった家が、朽ち果てるにまかせるしか方法がないという。
 柱も太く頑丈な家だ。朽ちるまでにどれだけの年月を要するのだろうか。   
 ( 田中雅紀 金沢市在住 ) 
 
スペース滝
925-0005 石県羽咋市滝町レ99-88  TEL 0767-23-4401

by spaceTAKI | 2015-10-13 19:50 |  スポコン君(花丸ゆう) | Comments(0)