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Rogerスペ滝・滞在記(2) 

ロジャー Roger TURNER のスペ滝・滞在記2

斜めからの素顔

11月7日
朝から何杯コーヒーを口にし、部屋を歩きまわったろう。ロージャーの滞在記の2、を書こうと思うのだけれど、初めての作文のように戸惑いが先だつ。多分、私の任ではないのに書きたい思いがあってのジレンマかもしれない。だから、正面からではなく「斜めから」書くほかはない。
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 たとえば、彼らの音楽について文字で伝えるのはむずかしい。「カーン、グチョグチョ、ドバッ、ビヨヨ〜ン」と音をなずってみてもとても分かってもらえまい。聴けば判る、が聞きたくもない雑音の類かも知れない。

島田英明氏の演奏ジャンルを「ノイズ(=噪音)系」と書いたら「現代音楽です」と訂正された。現代美術ならともかく”現代音楽”は私の守備範囲ではない。にもかかわらず、彼らに共感している私がいる。

 ロジャーについて述べれば、ドラムセットを叩いたことがある人ならご理解いただけると思うが「ズンタタ、ズンタタ」という基本リズムを、足と同時にスティックするだけでも素人にはむずかしい。だからロジャーがドラムに鐘やノコギリまで使い、流れるようにバチや書道の毛筆まで操るのを見れば、彼がその道の達人であることが容易に分かる。
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まして、一定リズムをわざとはずしたような”現代音楽”の、即興音楽のパートナー(今回は島田氏のエレキバイオリン)に合わせ間髪を入れず音色を変化させる妙は、うっとり聞き入ってしまう”噪音”の世界だ。そうそうたるアーティストとの共演や、世界を股にかけてのおびただしい演奏経歴を、71歳の今日も続け得るのは、並みのアーティストではないと言う事だ。

金沢を離れ、今日あたりはカナダで演奏をやってるはずと思う。
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原点


一体どこからこの演奏家が生まれたのか、食事をともにしながら"親友"はWikipedia情報にも書かれてはいない、とっておきを語ってくれた。

11歳ごろ、二人の兄がトランペットとトロンボーンをやっていて影響をうけた。私に興味深いのは、この兄から最初の日本への関心が生まれたということで、早熟にも鈴木大拙の禅書を読んだという。島田氏は「仏教徒か?」と訊いたが曖昧な返事だったらしい。禅や瞑想は、欧米人にとっては宗教ではなく哲学として受け入れられることが多いと思う。

 ロジャーの音楽は独学で、University of Sussex(サセックス大学)では英文学・現代哲学科を専攻している。当時、欧米は禅がブームで新鮮な哲学だったろうが、アーティストがかならずしも東洋哲学に関心がある訳ではないから、彼の人間性と思う。

島田氏と「めるつばう」


 日本の思想界では本場フランスに10年ほど遅れて、わずか20歳代の浅田彰が「構造主義」ブームを起こし、金沢の喫茶「めるつばう」にたむろしていた庄田常勝が論文訳に参加したりしたが、島田英明氏は最も若い「めるつばう」常連客の一人だった。
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当時、めるつばう、の美術活動期は終わっていたが、若い時の彼と店主の故・青山武、”埋もれた曲の発掘”をライフワークにしたピアニストの金澤(旧姓中村)攝おさむ氏らが、古いシンセサイザーなどで”操音”づくりをしているのを私は直接見聞きしている。島田氏は若さならではの行動力で、海外の音楽家などとコンタクトをとっていった。ロジャーもそうしたつながりの中からイギリスで出会い、今につながっている。

このジャンルでは現在、ASUNA(アスナ)氏(金沢市在住)が、三十代の若さで世界を舞台に旺盛な活動を展開している。彼と島田氏には当館でも、能登初の”現代音楽”即興ライブをしていだいた。

もうひとつの原点


 ところで、打楽器が縦横無尽に変化して流れ続けるロジャーのリズム感覚には、聞いて納得の創造の秘密がもうひとつあった。母親が愛したアラビア系の歌謡が幼児期から深く刷り込まれたという原体験だ。あのうねるようなオリエンタルな旋律と複雑なリズムが彼の操打法の原点なのではないか、と私は思う。

 彼がロンドンに移る前は、より東の海辺の町ウィスタブル(Whitstable)に居て、そこが生地。ここ滝が気に入ったのは同じ港町でもあるかららしい。詳しくは聞かなかったけれど、兄たちとは生地が違うので一家は中東から戻ったということらしい。大戦中か直後のことらしく、父親は戦争で負傷し、公務員だったという。
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アラビアのメロディーを歌ってみせながら、ロジャーはここにインプットされていると頭をつついてみせたが、実はもうひとつ歌ってみせた歌唱があった。それはかの有名なジョン・ケージのまねで、彼が”音痴?” だったという話なのだが、長くなるので今回はこれまで。次回も是非つづきを書かせていただこうと思ってますので、読んで頂ければ嬉しいのですが…。 (中田むしんど)

スペース滝
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