ハナの1 

ハナの話-1 
鼻を描く
ー古典に見る鼻ー

4月23日
 手塚治虫さんが、似顔やキャラ作りのコツについてイラスト入りで解説されたことがあった。少年雑誌だったかと思うが、昔の事で、覚えているのは内容の一部のみだ。 個性的なキャラクター作りには動物をモデルにして顔作りしたそうで、犬が元の形だとか何だとかの説明と、そのデフォルメの仕方まで絵解きしてあった。子供だった私に鮮明だったのは「似せるコツは鼻です」という箇所だった。

 今でも仕事でイラストを描く時、ふと鼻が気になって手塚さんを思い出す。一度だけ自筆のはがきをいただいた事があったけど、残念ながら紛失している。当時は何で鼻が重要か理解できず、ずーっと私の課題だった。今では、さすがだなあと思っているけど…。

d0329286_07553858.jpg 他の箇所と違う特徴は、鼻は盛り上がりに過ぎず、はっきりした輪郭がないので描き手の認識がもろに出ることだ。横顔では鼻はくっきり輪郭を見せるから、エジプトの壁画では頭が横向きで描かれ、目は重要なので正面から見たものを一個描く。彼らは心臓のある胸も重要と思ったのか正面から描いてそれに加える。で、足も正面から描くのは不自然とみてか、横からのを二本に見えるように描くことが多い。その結果エジプト独特のリアリズムが生まれる。この継ぎはぎ構成は、現代美術のキュビズムのコンセプトにも似るが、れっきとした写実主義から生まれているのだろう。


 鼻は日本の画家たちをも悩ませたかもしれない。大和絵や浮世絵ではたぶん真正面から描く事は少なかった(全てではないだろうけど)。へのへのもへじの「も」の字に象徴様式化されたろう鼻たちは、その向きで顔自体が”左右された”のに違いない。

 北斎などの浮世絵やインドの絵などの顔をいくつか集めてみたが、正面顔の鼻の表現はいろいろあって面白い。
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 最近、私の描くイラストは、意識してやや写実的になっている。「昔より上手くなったねえ」と言ってくれる人もあるが、実は写実的であるのはある意味つまらないと思っていたし、今もそう思ってはいる。
 昔のまんがは今とはスタイルが違い、どうマンガチックなデフルメでキャラを描くかが重要だった。が個性のあるスタイルを生み出すのは容易なことではない。私は時々鼻を描かず済ましたこともある。鼻は無くとも、かわいい表情の絵は出来るのだ。アクリル絵の具でカラフルでノスタルジックな田舎を描いた原田泰治さんは、のっぺらぼうな人物を好んで配置した。色面の扱いが目鼻口より重要と思っていたことがよくわかるイラスト群だ。

 「ストリー漫画」に「劇画」という、リアリズムを良しとする新しい形式が出現し、手塚さん始め漫画界の大御所たちを危機に追いやった時期があった。日本の漫画の大きな変革期で、今に至るアニメキャラもその延長上にあるといえる。
 基本、今のまんがはデフォルメさえもリアルだから、特別な表情を表現する時の外は正面からの顔に鼻を描かないことは先ず無い。ではその場合鼻はどう描かれるだろう? 興味あるかたは注意を払ってみられたらよいが、下方部分を描いた上にさりげなく片方のみに陰(一本の縦線のことも)をつけることが行われている。漫画用のソフトの開発もあって、今日では絵柄以上にストーリー作りが勝負所になっているはずだ。


 光と影をつかう表現は西洋の伝統で、日本的伝統では線と面が主役で陰影の意識はない。今日、その二つがドッキングしている。しかし詳細に見れば、今日の東洋と西洋の表現の中にその伝統を見つけることも可能かも。

 もともと絵というのは、3次元を2次元に表す方法のことだった。そこにはいろいろなヴァリエーションが生まれるし、個性が出て、遂にはその派生として、いわゆる”抽象美術”に至たる過程から「現代美術」の門戸も開かれていった。

「ハナ」と言うのは、その象徴的な部分でもあって、手塚さんではないが、はなはだ重要で面白いのだけれど、長くなるので続きはまたに。 中田むしんど
(※エジプト壁画は、のぶなが氏の撮影)

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