伊礼義信さん(沖縄県/クチャ焼き) 逝く

10月11日(日)
伊礼さんが亡くなった、と漫画家の田中雅紀氏からメールがあってから10日ほどたつ。
「焼き物を窯に入れ、火を入れる準備の途中で倒れて亡くなられたそうです。沖縄へ帰られてからは年賀状だけの付き合いでしたが、伊礼さんのケイタイに私の電話番号があつたそうで、一昨日奥さんから電話をいただきました。」とあった。
若い頃九谷焼の技術を身につけるためか、沖縄から金沢にきて、たしか寺町台地の長坂に窯があったと思う。田中さんは平和町だったから近い。
若いのにロクロ技術が確かだなあ、と私は思った。実用的な器ものがほとんどで還元焼成した磁器はやや青みを帯びた白色をしていた。当時からそれで食っていた。私は純美志望だったが、食い口はデザインやイラストを業とせざるを得なかった。だから田中さんや伊礼さんのプロっぷりを尊敬していた。いったいどうしたらそんな風にできるか聞いたことがある。
デパートでの個展では利益が薄いし、完売するわけでもない。物によっては外商さん、つまり美術画廊販売のセールス員が買い取ってくれたりするが、残りは商店に委託したり、自ら売りさばく。実用品だから、値さえ妥当なら友人知人にも買って貰える。それでも残ったら、自分自身のお遣い物にして全ての手持ちが捌ける、と伊礼さんは応えてくてた。
納得はしたが、心の内では、現実にそれで生きてるって「すごいなあ」と思い、私には出来そうにないことだった。屈託のないおしゃべり好きで、友達も多かったろうが、沖縄に戻ってからしばらくは一、二度金沢の画廊でも個展をしていたと記憶する。

トップ写真の「西洋婦人像(スペース滝展示品)」は彼にしては珍しい”遊びもの”で、是非にと譲り受けた。売るつもりがなかったらしく、応えには間があった。
私には作品の裏にある作者の心に惹かれる、という癖がある。エスプリとはやや違うものかもしれないが、作者の心根が素直に伝わってくる物が好きなのだ。
アーティストの心に自分の心がシンクロしている感覚を愛する、と言えるかも知れない。たぶん自分自身が成作する人なので、作品よりも制作者の思いの方に感情移入してしまうためだと思う。いや私だけではなく、鑑賞者はつまるところアーティストの心に付き合わされるのであって、無意識にでも、好き嫌いを生じている美意識の基準にしているはずだと思うのだけれど…。
写真は若い頃の伊礼さんと私。後ろは金沢美大の仏人留学生Jacky(金沢市の我がアトリエで)。ネットでは「クチャ焼きは10万円を超えて手が出なかった」と書いたものもありました。ご冥福をいのります。 中田むしんど
スペース滝
925-0005 石県羽咋市滝町レ99-88 TEL; 0767-23-4401