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”春”が来たころ

田中雅紀の「とんとむかし22」 少年期

思春期の扱い


 旧国立山中病院には温泉を利用した大きなお風呂があったが、お風呂に行かれない小児病棟の子供たちは看護婦さんが身体を拭いてくれた。病棟の大部屋は男子女子の混合同居だった。身体を拭くとき、中学生以上の女の子のベッドには布張りの衝立をおいて隠してくれたが、小学生以下は無防備だった。
 ぼくは中学生の歳だったが、小学生の勉強を習っていたので時にはベッドが小学生と中学生のさかいに置かれたことがあった。そしてとなりのベッドは小学生の女の子だった。
 女の子は小学4~5年生ぐらい。その歳になると看護婦さんに股間を拭かれるのを嫌がった。看護婦さんはかまわず女の子の腰の上にタオルを広げ、その下で股間を拭き「気持ちいいやろ」と言った。女の子はだまっていたが顔は怒っていた。

看護婦さんに××をほめられる


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 ぼくの左足は股関節の開きがわるいので、足とムスコの間に汗や垢がたまりやすく、月日がたつうちに嫌な臭いがするようになった。北陸には多種多様な発酵食品の文化があるが、ぼくの股間も発酵していた。友だちのサブちゃんに「ここから臭うぞ」と言われたこともあった。
 看護婦さんにぼくも身体を拭いてもらっていたが、股間を拭いてもらったことがなかった。看護婦さんも中学生の股間は拭きにくかったのだろう。
 サブちゃんは片足にギブスを付けていたが、ほかは自由だったので、濡れタオルをもらって自分で身体を拭いていた。身体を吹き終わり、最後にパンツの中にタオルを突っ込んで股間を拭いた。ぼくは手が不自由でそれができなかった。で、発酵が進むばかり。
 でも、ある看護婦さんがいた。メガネをかけた若い看護婦さんで、明るく元気、話し方が男前だった。その看護婦さんがぼくの身体を拭いてくれて、最後にいきなり股間も。長らく汗と垢のたまった部分を拭いてもらい、恥ずかしさと、こすられた刺激でぼくは初めて人前で勃起した。看護婦さんは「マーくん、病棟で1番大きいわ」と、ほめてくれた。

男はみんな〇〇よ(?)


 ぼくは旧山中病院に3年間入院していたが12歳から14歳の中学生のとき。思春期だったが、ぼくはまだ異性にそれほど興味がなかったと思う。田舎の家にいたときのように自分でとばすことも、大部屋の大勢いる環境の中ではムリで1度もやらなかった。それでもぼくには痴漢の素質が十分あった。
 小児病棟の大部屋では、朝の起床前にベッドごとに看護婦さんが尿器を配っていく。配り終えたら、おしっこがすんだ尿器をまた回収する。このあと、検温だったり洗面だったりして起床になるのだが、朝はやくはまだ眠く、尿器におしっこをしながら眠ってしまうことがあった。看護婦さんが尿器を回収にきたとき、尿器の中にそれが入ったままになっていた。ぼくは眠ったふりをして、わざとそれをやったことがある。しかも自分が好きな看護婦さんを選んでやった。これはもう立派な痴漢行為だった。

 現在のはなし。社会的地位のある人が、女子高生のスカートの中を盗撮したり、トイレをのぞいて捕まったりというニュースをよく見聞きする。「バカだなー」と思うが、真から嗤えない自分がいる。もしか自分の身体が不自由でなかったら、ニュースになるような恥ずかしい事件をおこしていたかもしれないからだ。

 田中雅紀(漫画家・金沢市) 



スペース滝
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