人気ブログランキング | 話題のタグを見る

坂井孝正画集の紹介 

坂井孝正画集の紹介 _d0329286_22175398.jpg
2024年5月9日(木)
中田虫人 Mushind N.


坂井孝正画集


 美大クラスメートの坂井氏が画集「パリ風景 水彩」を出されたので紹介します。

坂井孝正画集の紹介 _d0329286_22190913.jpg
坂井孝正画集の紹介 _d0329286_22201145.jpg


自費出版で236ページに229点の絵が収録されています。
同窓生と言っても私より7歳も上なので、現在87歳でしょうか。越中八尾の生まれで、中卒で9年近く東京の帽子屋さんで丁稚奉公をされた。その後高校を出て、金沢美術工芸大の油絵科で出合うことになった。
 年代から言って、若い頃はゴッホやパリが心を掴んでいた世代かと思う。学生時代はアメリカ美術が色こく台頭してきており、私の地方でもアメリカの抽象絵画展が紹介されるほどだったから、気の利いた者はそちらに目が向いていたし、私もこちらの方でしたが…。

坂井孝正画集の紹介 _d0329286_22205386.jpg
坂井孝正画集の紹介 _d0329286_22235949.jpg


 ところが坂井さんの欧州・パリへの執着は一貫しており、晩年目が不自由になってからも白杖を手に何度も一人でパリ詣をするなど、画家の生涯のテーマでした。

盲目で描く


 「水彩」と銘打ってあります。水で溶いた絵の具を使うのですが、手法はモノタイプ(=モノプリント)と言っていい、一点しかない孔版版画(ステンシル技法)です。

坂井孝正画集の紹介 _d0329286_22212891.jpg


かなり前から目が不自由になり始め、今は微かに光を感じるほどにまで病魔が進行してるようです。画集作品は拡大読書器(弱視者がモニター画面で文字を拡大して読むための機械)を使用して色をさすことができた頃の作品が主です。

坂井孝正画集の紹介 _d0329286_22220213.jpg
△右ページ「トゥールーズの公園にて」(45×65cm)はスペース滝の収蔵展示作品。


後書きにもありますが、取材はカメラ撮りでして、その画像から紙型を作るために他の方の助力が必要になります。今では中井さんというご近所の日本画を描かれる方との完全な共同制作だとお聞きしました。

カメラでの取材


 一般的な話ですが、写真を使う事を嫌う画家の立場があります。例えば日本画では写真を使うことはタブーです。写生して対象の特徴を見極め、そこで得たものから絵を再構築する、という過程を踏むからです。写生は写真のように光と影を写すのではなく、それを除いた本体その物を掴もうとするので、本画の制作時は、それをもとに改めての構成画面を描くのであって写生ではありません。
 イラストレーターや漫画家の描き方も基本的には写生画ではなく、いわば記憶や想像で描き出すことが多いでしょう。

ところが西洋画の伝統的理想は目に見えるように描くこと、つまり立体感のあるリアリズムを求めたので光と影が主役になった。だから絵画は写真機の登場で挫折を味わい、”近代絵画の革命”という別の新たな視覚世界を見出して軸足を移さざるを得なかったと言えましょう。
 その際、日本画的リアリズム表現(=浮世絵版画)が大きな影響を与えたのはご存知の通りです。

坂井孝正画集の紹介 _d0329286_10154062.jpgで、坂井さんの絵はどうでしょう? 輪郭線のない光と影の「写真の世界」が、浮世絵の持つ平面的な色面に置き換えられ、余白の多い画面構成はどこか掛軸の山水画の空気感があって、この技法独特のミニマムで独自な味わいがあることに気づきます。重厚な油絵などと異なった明るい色彩のハーモニーは軽やかで、現代的なオフィスなどの壁にあれば、趣味よくフィットしてオシャレな空間を醸し出す力がありそうです。
もっと高く評価されていい仕事だと私は思います。

坂井孝正画集の紹介 _d0329286_22241116.jpg
連絡先:〒563-0102 大阪府豊能郡豊能町ときわ台7-5-3

スペース滝 925-0005 石県羽咋市滝町レ99-88